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新潟地方裁判所 昭和58年(ヨ)268号 判決 1984年9月03日

申請人

田中政夫

(別紙選定者目録記載の選定者ら〔二三名〕の選定当事者)

右訴訟代理人弁護士

坂上富男

右同

近藤正道

被申請人

新潟臨港海陸運送株式会社

右代表者代表取締役

大久保政賢

被申請人

三和運送株式会社

右代表者代表取締役

小林壽夫

右両名訴訟代理人弁護士

伴昭彦

右同

藤田善六

主文

一  別紙選定者目録(略)記載の二三名が被申請人三和運送株式会社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

二  被申請人三和運送株式会社は、申請人に対し、昭和五八年一〇月一日から本案判決確定に至るまで毎月末日限り、右選定者らに対する別紙賃金一覧表(略)記載のとおりの金員を仮に支払え。

三  被申請人新潟臨港海陸運送株式会社に対する本件仮処分申請はいずれも棄却する。

四  申請費用は、申請人と被申請人三和運送株式会社との間においては、申請人に生じた費用の二分の一を被申請人三和運送株式会社の負担とし、その余は各自の負担とし、申請人と被申請人新潟臨港海陸運送株式会社との間においては全部申請人の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  申請の趣旨

1  別紙選定者目録記載の二三名が被申請人らに対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定める。

2  被申請人らは申請人に対し、各自、昭和五八年一〇月一日から本案判決確定に至るまで毎月末日限り、右選定者らに対する別紙賃金一覧表記載のとおりの金員を仮に支払え。

二  申請の趣旨に対する被申請人らの答弁

申請人の申請をいずれも却下する。

第二当事者の主張

一  申請の理由

1  当事者

被申請人新潟臨港海陸運送株式会社(以下被申請人臨港海陸という)は、資本金一二億円で、海上及び陸上輸送運搬を主たる業務とする株式会社であり、広汎な業務の一つとして、コープケミカル株式会社より同社東港・山の下・石山の各工場における化学肥料の梱包・運搬の業務を請負っている。被申請人三和運送株式会社(以下被申請人三和運送或は単に会社という)は、資本金二〇〇〇万円で、コープケミカル山の下及び石山の両工場において化学肥料の梱包・運搬部門を請負っている被申請人臨港海陸の下請として、コープケミカルの製造する化学肥料の梱包・運搬を担当している。

選定者らは、被申請人三和運送に雇用されて、コープケミカル山の下工場で就労しており、いずれも総評・全国一般労働組合新潟地方本部(執行委員長松田藤松、組合員数約一二〇〇名、以下全国一般という)に所属し、他の従業員とともに、全国一般・日東運送支部(支部長・田中政夫)を組織している。

2  選定者らと被申請人臨港海陸との関係

選定者らは、形式的には、一応、被申請人三和運送に雇用されているが、実質的には、被申請人臨港海陸との間にも雇用関係を有するものである。

その法理的根拠は、いわゆる法人格否認の法理であり、その法理を構成する事実は、以下の通りである。

(一) 歴史的経緯

(1) 以前、新潟市に、日東硫曹(本社・工場とも山の下所在)、新潟硫酸(本社・工場とも石山所在)という化学肥料の製造を目的とする株式会社があり、右両社の製品梱包、運搬部門を被申請人臨港海陸が請負っていた。

(2) 被申請人臨港海陸は、日東硫曹における業務を、日東運送株式会社に、新潟硫酸における業務を新硫運送株式会社にそれぞれ下請けさせていた。

(3) 日東運送・新硫運送は、いずれも被申請人臨港海陸が株式のすべてを保有し、役員人事構成その他業務のすべての領域において、完全な支配権を握る子会社であった。

(4) その後、日東硫曹株式会社と新潟硫酸株式会社は、合併し、サン化学株式会社となった(サン化学は、昭和五八年、他の三社を合併し、コープケミカル株式会社となる)。

(5) そこで被申請人臨港海陸は、昭和五一年、日東運送と新硫運送を合併させ、被申請人三和運送を発足させたものである。この際、資本金を増大させ、取引関係強化を狙って、サン化学(当時)からも、多少出資をしてもらった。

このように、その歴史的経緯からして、被申請人三和運送は、被申請人臨港海陸の完全な子会社であり、臨港海陸の完全支配下にあって、何ら、その主体性を有しないカイライ会社である。

(二) 株式保有・役員構成

現在、被申請人三和運送の株式は、その七五パーセントを被申請人臨港海陸が保有しており、役員の構成についても、過去及び現在を通じ、代表取締役を筆頭に、取締役・中枢幹部の大部分は、被申請人臨港海陸の現役役員・出向者によって占められている。

(三) 財政・業務内容

被申請人三和運送は、多少の車輛の他、さしたる資産を保有せず、売上げの約一割を管理費と称して、被申請人臨港海陸にピンハネされている。

従業員はすべて、被申請人臨港海陸従業員に代って、コープケミカル石山・山の下の各工場で就労し、コープケミカルと被申請人臨港海陸の担当者が協議して作成した作業日程に従い、右担当者の具体的指示の下、日々の作業に従事している。

(四) 経理労務関係

被申請人三和運送の経理は、被申請人臨港海陸が完全に掌握し、銀行等からの借入れは、すべて被申請人臨港海陸の保証の下で行われている。

また被申請人三和運送は、他の被申請人臨港海陸関連子会社とともに、定期的に会合(金曜会)をもち、その業務内容をつぶさに被申請人臨港海陸に報告し、従業員の賃金、一時金その他労働条件の決定についても、被申請人臨港海陸の指導の下、実質的に、金曜会で決定し、これが基準に拘束されるなど、日常的に親会社・被申請人臨港海陸の厳しい監督・指導の下に置かれている。

以上の通り、被申請人三和運送が被申請人臨港海陸に完全支配され、両社は完全な親会社、子会社の関係にあり、社会的・経済的にみて、実質的に単一の企業体と評価できる。まぎれもなく、被申請人三和運送は、コープケミカル山の下・石山両工場における臨港海陸の出張所(梱包・運搬部門担当)としての実態を有する。

3  指名解雇の発令とその理由

(一) 昭和五八年七月、コープケミカルは、山の下工場の閉鎖を決定し、被申請人臨港海陸への梱包・運搬の委託を打切った。これを受けて被申請人臨港海陸は、山の下工場の梱包・運搬業務を一括下請けしていた被申請人三和運送に対し、前同様の委託打切り通告を行った。

(二) 被申請人三和運送は、昭和五八年九月二八日、選定者らを含む二四名に対し、同社就業規則第二〇条(左記)により、同月三〇日付をもって解雇する旨意思表示(以下本件解雇という)した。

第二〇条 会社は社員が次の各号の一に該当するとき解雇する。

(3) 会社が事業の縮少、閉鎖等やむを得ない業務上の都合によるとき

(三) しかし、後記4(三)(2)記載のとおり、就業規則第二〇条(3)の事由はなかったものである。

4  解雇の無効

被申請人三和運送の選定者らに対する本件解雇は、次の理由により無効である。

(一) 不当労働行為

前述のごとく、被申請人三和運送の従業員は、コープケミカルの山の下工場と石山工場で就労しており、山の下工場の従業員は全国一般日東運送支部に、石山工場の従業員は新硫運送労働組合(以下新硫労組という)に各々組織されている。

被申請人三和運送は、被申請人臨港海陸の指導の下、表向きは、全社的に平等に余剰人員を整理したいと、当初、希望退職を募った。しかし被申請人両者の本音は、山の下工場の閉鎖に乗じて、この際、労使協調的な新硫労組を温存し、階級的・戦闘的な全国一般日東運送支部を解体しようとする目的にあったことは、明白である。

すなわち、この間全国一般日東運送支部がストライキ権や年休等労基法上の諸権利を積極的に行使し、職場の男女差別の撤廃等に果敢に取り組んできたのに対し、新硫労組は、これらの闘いをほとんど行わず、種々の便宜供与を受けており、その労使協調的な体質は否定できないものがあった。

このため、会社側は、常々「全国一般の組合員は文句ばっかりいって働かない。なまけ者集団だ。それに比べて新硫労組の組合員は立派だ」などと、新硫労組擁護、全国一般敵視の露骨な意図をあらわにしていた。

従って山の下工場閉鎖に伴う今次人員整理に際しても、全国一般日東運送支部の組合員らを退職に追い込むべく、石山工場では、臨時従業員を多数採用する程多忙であるのに、従来の応援派遣の慣例を破棄し、同支部組合員の石山工場入構を認めなかった。

そして、遂に、何ら合理的基準も示すことなく、全国一般日東運送支部組合員の二四名を解雇したものである。日東運送支部構成員は、三五名であるから、二四名の解雇は、全体の約七〇パーセントに当たり、何よりも田中支部長以下、組合三役及び役員は、全員解雇され、残った組合員一一名は大部分定年まで、あとわずかの月日を残す人達であり、文字通り、労働組合解体の状態に陥っている。

一方、新硫労組からも二名の解雇者が出たが、同労組の構成員は、合計五八名であるから、解雇率は三パーセントであり、組合役員には、何ら影響はなかった。

この差がすべてを物語っている。明らかな組合間差別であり、どのような理屈をもってしても、かかる極端な不均衡を正当化しうるものではない。

まさしく、選定者らは、全国一般日東運送支部に所属していたが故に、解雇されたものである。被申請人両社は、山の下工場閉鎖という事態に乗じ、同支部解体という積年の悲願を達成しようと、本件解雇を断行したものである。

(二) 協約義務違反

被申請人三和運送と新硫労組との間には、労働協約が締結されており、右協約の第二九条本文及び同条三号は、左記の通り規定している。

第二九条 会社は従業員が次の各号の一に該当する時は、組合と協議の上解雇する。

三  会社が事業の縮少、閉鎖等やむを得ない業務上の都合による時

ところで、選定者らが所属する全国一般日東運送支部は、昭和五一年の会社合併、三和運送株式会社の設立に際し、当時の日東運送との間で、右合併を承認する条件として、全国一般の組合員と被申請人三和運送の間においても右労働協約第二九条三号が、そのまま適用されることで、意見の一致をみ、その旨覚書をかわし、その効力は、現在も生きている。

しかるに、被申請人三和運送は、選定者らの解雇に際し、何ら事前に全国一般日東運送支部との協議を実施していない。

文字通り抜き打ち的突然の指名解雇を行なったものである。これは明らかに、右協約(覚書)違反である。解雇に伴う事前協議が、いわゆる規範的効力を有するものである以上、協議なしで実施された選定者らに対する本件指名解雇は、労使の定めた手続に違反し、無効である。

(三) 解雇権の濫用

(1)  解雇は、労働者の生活基盤を根底から破壊するものであり、ことに整理解雇は、企業の一方的都合によってこれを行うものであって、解雇される労働者にとって何ら責任のないものであるから、次の四つの要件を具備しない限り、当該解雇は解雇権の濫用として無効となるものである。

<1> 整理解雇を行うべき十分な必要性があること

<2> 解雇を回避するための十分な努力がなされたこと

<3> 解雇基準が合理的であること

<4> 労働者、労働組合に対し、十分納得のいく協議、説明がなされたことその他解雇手続に問題がないこと

ところが、本件解雇は右四つの要件のいずれをも満たしていないので、解雇権の濫用として無効である。

(2)  整理解雇の必要性欠如

被申請人三和運送は、年間約七億円の売上げがあった。そして、被申請人臨港海陸に管理費と称して、構内作業売上げの五パーセント、運送作業の約一二パーセントをピンハネされ、その金額は、年間約六〇〇〇万ないし七〇〇〇万円に達する。それにもかかわらず、被申請人三和運送は、設立以来、経理は黒字を続け、経営状態はすこぶる良好であり、その資産は十分なものがあったものであり、整理解雇は必要なかった。

(3)  解雇回避努力義務違反

山の下工場は、昭和五六年ころから閉鎖必至の状況にあったので、全国一般日東運送支部は、再三再四に渡り、人員整理を回避するための措置を講ずるよう会社に対して申し入れてきたが、会社は何らの対策も講ずることなく、漫然と手を拱いてきた。昭和五八年七月、山の下工場の閉鎖が決定した以後も、会社は、資産売却・一時帰休・労働時間の短縮等の措置を講じていない。また、本件解雇当時、石山工場には多数の臨時作業員、嘱託がいたにもかかわらず、一人も解雇されなかったし、本件解雇の三ケ月前、会社はコープケミカルより一〇名の出向者受入れを受諾したこともあり、多数の下請会社を抱えているにもかかわらず、これら下請の解約・取込みを実施していない。更に、会社は、希望退職の募集を実施してはいるものの、会社が著しく低劣な退職条件に固執した結果、全く効果をあげることができなかったもので、退職条件を引上げたうえでの再募集という全国一般日東運送支部の提案を拒絶した会社の対応は、明らかに解雇回避努力義務に違反したものというべきである。

(4)  解雇基準の不合理性

本件解雇基準は、まず過去三年間の出勤率を算出し、これから過去三年間の当日年休一回を一点の割合で減点して策定したものであるが、右基準は以下のとおり、著しく不合理である。

<1> 本件解雇基準は労働者の個別的事情を判断する諸要素を全く排除している。

<2> 当日年休は、労基法三九条が定める年次有給休暇であり、当日年休を不利益に評価することは、とりも直さず労基法上の権利行使を不利益に評価することであって、著しく不合理である。

<3> 当日年休一回分を一点と評価するということは、計算上、当日年休一回分を無断欠勤八・八回分と同一に評価することとなり、当日年休を著しく過重に評価するもので、不合理である。

(5)  解雇基準適用の不合理・不公平

<1> 出勤率等を解雇基準とする場合、同一の期間を対象にしなければならないのに、全国一般日東運送支部の組合員と新硫労組の組合員との間には、調査対象期間に二か月のズレがあり、本件解雇基準の適用において著しく不合理、不公平である。

<2> 会社は、全国一般日東運送支部より大量の解雇者を出そうとの意図のもとに新硫労組の当日年休取得日数を実際の取得日数より過少に数えている。

(6)  協議義務の懈怠

会社と全国一般日東運送支部の間には、合計一〇回の団体交渉がもたれてはいるが、右団交においては、経理も公開せず、具体的資料も与えず、解雇の規模、人員も知らせず、解雇基準も示さなかったものであるから、体裁を整えるだけのものであって、著しく不誠実であり、会社は協議義務を完全に懈怠しているというべきである。

5 選定者らの給料

選定者らの解雇前三か月の平均賃金は、別紙賃金一覧表記載のとおりであるが、被申請人三和運送は、昭和五八年一〇月一日から、選定者らに右賃金を支給しない。

6 保全の必要性

現在、選定者らは、被申請人両会社に対して、従業員たる地位確認と賃金支払の訴を提起することを検討しているが、被申請人両会社から従業員として取扱われず、賃金という唯一の収入を断たれているため、その経済状態は困窮しており、本案判決の確定を待っていては、回復し難い損害を被る。

よって、申請人は、被申請人らに対し、選定者らが労働契約上の権利を有する地位を有することを仮に定めることを求めるとともに、被申請人らが、各自昭和五八年一〇月一日から毎月末日限り、選定者らに対する別紙賃金一覧表記載のとおりの賃金を仮に支払うことを求める。

二  申請の理由に対する認否

1  申請の理由1の事実は認める。

2  申請の理由2の事実中、かつて日東硫曹株式会社、新潟硫酸株式会社という化学肥料の製造会社があったこと、日東硫曹の製品梱包・運搬業務を被申請人臨港海陸が請負い、日東運送株式会社にこれを下請させていたこと、新潟硫酸の構内荷役作業(梱包・運搬)を新硫運送株式会社が請負っていたこと、日東運送及び新硫運送の全株式を被申請人臨港海陸が取得保有したこと、日東硫曹と新潟硫酸が合併し、サン化学株式会社が設立され、更に、サン化学が他社と合併しコープケミカル株式会社が設立されたこと、昭和五一年日東運送と新硫運送は合併し、サン化学からの資本参加も得て被申請人三和運送を設立したこと、被申請人三和運送の資本構成は、被申請人臨港海陸が七五パーセント、サン化学(現在のコープケミカル)が二五パーセントであることは認めるが、その余の事実は否認する。

3  申請の理由3(一)、(二)の事実は認める。

4  申請の理由4の事実中、被申請人三和運送の従業員は、コープケミカルの山の下及び石山の両工場に就労していて、山の下工場の従業員は全国一般日東運送支部に、石山工場の従業員は新硫運送労働組合に各々組織されていること、本件解雇前の日東運送支部構成員が三五名で、新硫労組構成員が五八名であること、被申請人三和運送が選定者らを含む二四名と新硫労組所属従業員二名に対しそれぞれ指名解雇通知を発したこと、被申請人三和運送と新硫労組との間で労働協約が締結され、同協約二九条には申請人主張のとおりの解雇協議約款があること、本件解雇基準が、過去三年間の出勤率から、過去三年間の当日年休一回を一点の割合で減点して策定したものであることは認めるが、その余の事実は否認する。

5  申請の理由5の事実は認める。

6  同6の事実中、被申請人臨港海陸が終始、被申請人三和運送が本件解雇後選定者らを従業員として取扱わず、賃金を支払っていないことは認め、その余は争う。

三  被申請人三和運送の主張

1  解雇の正当性

(一) コープケミカルは、肥料業界の不況から、その八工場の内、山の下工場を閉鎖することを決定し、同工場の構内荷役作業(梱包・運搬)の元請である被申請人臨港海陸に対し、同工場内の作業中止を通知してきた。同被申請人はこれを受けてその下請である被申請人三和運送に対し、昭和五八年九月末日製品払出完了、一〇月末日工場閉鎖を通知した。被申請人三和運送は、山の下工場閉鎖により作業量の急激な減少を受け、昭和五八年度の売上げは約三五パーセント、約二億円も減少することが予想され、経営収支では約一億円の赤字が見込まれる状態となった。

(二) 被申請人三和運送は、仕事量の確保、余剰人員の関連会社への吸収等を検討したが、運送業界全体が構造的不況であり、不可能であった。

(三) 被申請人三和運送は希望退職を募集することとし、昭和五八年七月二二日に退職金の割増を条件として、山の下、石山の営業所全作業員に対し、四三名の希望退職者を募集したが、新硫労組の一名がこれに応じたのみであった。

また、被申請人三和運送は、就職斡旋のため、自ら他会社を訪問して九社男女計三〇名の求人を確保し、他方職業安定所における求人情報二五社三九名分を両組合に提供する等指名解雇を回避するための努力をしてきた。

(四) しかし、被申請人三和運送は、山の下工場閉鎖による売上の欠落、資金の涸渇により、賃金の支払の見込みがなくなり、一、二か月内には支払停止に至ることが明らかとなったため、倒産という最悪の事態を回避するため、本件解雇に踏み切ったものである(その解雇者数も、希望退職者数四三名より減らし、最少限度の二六名とした)。

(五) 本件解雇は、過去三年間の山の下、石山各営業所の全作業員の出勤率を基準として、その成績順に決定したものであるが、右出勤率は、あくまでも私傷病・私用欠勤を対象とし、年休その他の所定休暇・公傷欠勤・組合用務等は欠勤に含まれないものである。

右出勤率の中には、いわゆる「ポカ休」(当日突然休暇の申出をして休む)を減点の要素として加算してある。「ポカ休」を減点要素に入れたのは、被申請人三和運送の勤務は、六人一組の荷役作業体制を組んでいるのに、当日突然一人休むと他の五人が組みかえを拒否し、かつ、作業は六人でやるべきだから、五人ではできないと言って、この五人が作業につかず、作業能率を著しく低下させていたため、特に全国一般日東運送支部(山の下工場)に対し、団交の席上、これをやめるよう再三申入れ、また、従業員に対しては、朝礼時にポカ休の注意をし、ポカ休一覧表を提示する等、その解消をはかってきたが、全くあらたまらなかったものである。右ポカ休は、会社に対する誠意ある労務の提供ではないことは明らかであり、当然勤務成績を判断する際に勘案しなければならないものである。

第三疎明関係

本件訴訟記録中の証拠目録の記載を引用する。

理由

一  申請の理由1の事実は当事者間に争いがない。

二  選定者らと被申請人臨港海陸との関係

1  かつて日東硫曹株式会社、新潟硫酸株式会社という化学肥料の製造会社があったこと、日東硫曹の製品梱包・運搬業務を被申請人臨港海陸が請負い、日東運送株式会社にこれを下請させていたこと、新潟硫酸の構内荷役作業(梱包・運搬)を新硫運送株式会社が請負っていたこと、日東運送及び新硫運送の全株式を被申請人臨港海陸が取得・保有したこと、日東硫曹と新潟硫酸が合併してサン化学株式会社が設立され、更に、サン化学が他社と合併し、コープケミカル株式会社が設立されたこと、昭和五一年日東運送と新硫運送は合併し、サン化学からの資本参加も得て被申請人三和運送を設立したこと、被申請人三和運送の資本構成は、被申請人臨港海陸が七五パーセント、サン化学(現在のコープケミカル)が二五パーセントであることは当事者間に争いがない。

2  しかし、(人証略)、被申請人三和運送代表者本人尋問の結果によれば、新硫運送は、昭和二三年一二月新潟硫酸の構内及び通運の各作業の下請会社として新潟硫酸の出資により設立されたものであって、従前は被申請人臨港海陸とは何の関係もなかったこと、被申請人三和運送の役員中、代表者は被申請人臨港海陸からの出向者ではあるが、非常勤であり、常勤の最高責任者田村常務は新潟硫酸・サン化学の出身者であり、臨港海陸関係者のみで役員が構成されているわけではないことが一応認められ、右事実に本件に顕れた諸般の事情を併せ勘案すれば、被申請人両会社の事業内容、経営形態、経理状況、従業員に対する待遇等々は、それぞれ独立して行われているものというほかはなく、本件全疎明資料によるも、被申請人三和運送の法人格を否認すべき事情即ち法人格が全くの形骸にすぎないとか、法律の適用を回避するために濫用されているとかの事情は認められない。従って、被申請人臨港海陸と選定者らとの雇用関係を認めることもできない。

よって、申請人の被申請人臨港海陸に対する本件仮処分申請は、その余の点について判断するまでもなく理由がないというべきである。

三1  申請の理由3(一)、(二)の事実は当事者間に争いがない。

2  そこで、就業規則第二〇条(3)の事由があったかどうかについて判断する。

(一)  (人証略)及び被申請人三和運送代表者本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、被申請人三和運送は、昭和四五年の合併設立時に約一億円の累積赤字を有していたが、同五七年度に至りようやく赤字を解消し、始めて繰越利益約四八万円を計上しうる状態になったところであったが、前記のとおり被申請人臨港海陸から山の下工場の構内荷役作業の委託打切りを受けたため、山の下営業所の作業量が皆無となったこと、そのうえ、山の下工場閉鎖に伴ない、石山工場から山の下工場へ硫酸年間約三万五〇〇〇トン及び消石灰約二〇〇〇トンを搬出する作業や、山の下工場で生産された過リン酸石灰年間二万トンを石山工場へ搬送し、石山工場から各需要家へ輸送する作業などがなくなることとなり、石山工場での被申請人三和運送石山営業所の作業量も急減する事態となり、その結果、石山営業所においても、人員過剰となってしまったこと、かくして、被申請人三和運送は、昭和五八年度の売上げは約三五パーセント、約二億円の年間売上げの減少が予想され、経営収支では約一億円の赤字が見込まれる状態となったことが一応認められ、運送業界全体の構造的不況と相まって被申請人三和運送としては、経営破綻を避けるため、人員を削減することが必要となったことが推認できる。

(二)  前記認定の事情からすれば、被申請人三和運送においては、就業規則第二〇条(3)の事由があったといわなければならない。

四  次いで、申請人は、本件解雇の効力を争っているので次に検討するが、便宜、解雇権濫用の主張から判断することとする。

1  企業が経営困難に陥った場合、これをどのようにして克服するかは、本来当該企業の専権に属する企業運営方針の策定の問題であって、経営者が自らの責任において自由に行い得るものであるが、その方法として労働者の解雇をすることまで自由に行い得るものではない。なぜならば、我国における労働関係は終身雇用制が原則的なものとされており、労働者は、雇用関係が永続的かつ安定したものであることを前提として長期的な生活設計を樹てるのが通例であって、解雇は、その労働者のみならず、その収入で生活をしている家族も直ちに生活基盤を失うことになるからである。そして、終身雇用制と年功序列型賃金体系を常態とする我国の雇用状況からすると、再就職は減収を覚悟しなければならないし、不況時には、その再就職すら容易ではない。

従って、右のように解雇が労働者の生活に深刻な影響を与えるものであることを考慮すると、企業がその存立維持のため労働者の責によらない事由により解雇する場合には、一定の制約を受けることを免れないものというべきであり、解雇権の行使の仕方によっては、権利濫用の評価を受けることとなると解するのが相当である。

そして、当該解雇が権利濫用となるかどうかは、企業側及び労働者側の具体的事情を総合して解雇に至るのもやむを得ない客観的・合理的理由が存するか否か、並びに解雇の手続が相当であったかどうかに帰するものであり、主として次の諸要素を考察して判断すべきものと解する。

即ち、第一に当該解雇を行わなければ企業の維持存続が危殆に瀕する程度に差し迫った必要性があるかどうかであり、第二に解雇をする前にこれを回避するため十分な努力をすると共に、それが避けられず解雇をする場合には、解雇による労働者の犠牲を最小限にするための努力がなされたかどうかであり、第三に解雇をするにあたっては、当該労働者に対し、事前にその解雇のやむを得ない事情と解雇の時期、規模、方法等について十分説明をし、労働者の納得を得られるように努力したかどうかであり、第四に整理基準及びそれに基づく人選の仕方が客観的、合理的なものであるかどうかであり、右四つの要件を具備しない限り、当該解雇は解雇権の濫用として無効となると解するのが相当である。

2  そこで、右の観点から、まず、本件解雇基準について検討する。

(一)  本件整理解雇の基準が、過去三年間の出勤率から、過去三年間の当日年休一回を一点の割合で減点して策定したものであることは当事者間に争いがない。

(二)  整理基準が合理的だとされるためには、労使双方の利益・諸事情を包含した基準であって、かつ社会的に相当だと是認されるものであることが必要であり、また、使用者の主観的・恣意的な判断を抑制する機能をもつものでなければならない。このような観点からすれば、出勤率のみを基準にする限りは、企業に対する貢献度という観点からの基準であり、整理目的に合致するものであるから一応は合理性を担保するものということができる。

(三)  しかし、本件解雇の基準のように、当日年休を加算することは、以下に述べるとおり不合理であるといわざるをえない。

(1) 一般的に年次有給休暇を減点要素とすることについては、労基法という強行法規によって保障されている権利であるから、この権利行使を理由に不利益な取扱いをするということとなり、強行法規が右権利を保障した趣旨に反し、労働者にこの権利行使を抑制させる結果を招くことになるので、違法であり、許されないというべきである。

(2) ところで、本件で問題とされている当日年休というのは、労基法三九条の年次有給休暇のうち、休暇当日に労働者が時季の指定をするものであるところ、法は、労働者が年休の時季を指定すべき時期について、何らこれを制限すべき規定を置いていないから、いつ年休の時季を指定するかは労働者の自由であり、これにより、その指定どおりの休暇取得の効果を生ずるかどうかは、客観的に労基法三九条三項但書所定の事由が存するかどうか、及び使用者が時季変更権を行使するかどうかにかからしめていると解すべきであり、従って労働者の休暇の請求自体がその指定した休暇期間の始期にきわめて接近してされたため使用者において時季変更権を行使するか否かを事前に判断する時間的余裕がなかったようなときには、その行使が遅滞なくなされる限りは、年次有給休暇の期間が開始し又は経過したのちに時季変更権を行使することも可能であると解するのが相当である(最判昭和五七年三月一八日民集三六巻三号三六六頁参照)。

(3) 従って、当日年休によって事業の正常な運営を妨げるような場合には、時季変更権を行使すべきであるところ、(人証略)及び弁論の全趣旨によれば、被申請人三和運送は、当日年休に対し、これまで一度も時季変更権を行使したことはないこと、被申請人三和運送山の下工場では、従前、当日年休が問題とされたことはなかったが、山崎孝次が、山の下営業所長となった昭和五六年七月ころから、同人から全国一般日東運送支部に対し、朝礼時や団交時に当日年休をやめるように申入れるようになったこと、本件解雇基準のように当日年休一回を一点と評価するということは、計算上、当日年休一回分を無断欠勤八・八回分と同一に評価することとなることが一応認められる。

被申請人三和運送は、当日年休が現場に混乱をもたらしたとして種々主張しているが、右のような事態があったのであれば、前述のとおり時季変更権を行使してこれに対抗すればよいのであって、労働者の当日年休という権利行使を適法に完結させておきながら、後になって労働者の生活に深刻な影響を与える解雇基準という重大な場面において、しかも、当日年休一回分を無断欠勤八・八回分と過大に評価して適用することになるのであるから、労使関係の信義則に照らし、本件解雇基準は著しく不合理であるといわざるをえない。

(四)  以上のとおり、本件整理解雇基準は、合理性を欠くものというべく、その余の点について判断するまでもなく、本件解雇は解雇権の濫用として無効たることを免れない。

五  申請の理由5の事実は当事者間に争いがない。

六  保全の必要性

弁論の全趣旨によれば、選定者らが被申請人三和運送から受ける賃金により生活をしている労働者であることが一応認められ、本件解雇後、右被申請人から従業員として取扱われず、賃金の支払を受けていないことは当事者間に争いがないのであるから、本案判決の確定をまっていては回復し難い損害を被ることは明らかである。

七  結論

よって、選定者らが被申請人三和運送に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることを仮に定め、かつ、昭和五八年一〇月一日から毎月末日限り、選定者らに対する別紙賃金一覧表記載のとおりの各金員の仮支払を求める申請人の本件仮処分申請は理由があるから、申請人に保証を立てさせないで、認容することとし、被申請人臨港海陸に対し、右同旨の裁判を求める部分については、その被保全権利の疎明がないこととなり、事案の性質上保証をもって右疎明にかえることは相当でないので、失当として棄却することとし、申請費用の負担につき、民訴法八九条、九二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 豊島利夫 裁判官 雨宮則夫 裁判官 長谷川憲一)

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